【OXYMORON】

悠々として急げ ※このブログはプロモーションを含みます

事実は小説よりも奇なり

死の淵にいるはずの人の話。

 

死の淵にいるはずの人は、

半年前に救急搬送されて

半年間病院に入院していたが、

家族親族と連絡が取れないため

病院の入院費が払えず、

役所が動いたがなかなか解決できなかった。

 

家に役所の人が行ったものの、

そこはすでにゴミ屋敷と化していたらしい。

当然金目の物は確認できなかったらしく

役所は特養介護老人ホームを探し、

空きのあった施設に搬送した。

 

搬送先でも、家族親族とは連絡が取れず、

本人も救急搬送されたままの

服と荷物しか持ち合わせておらず

(おそらく病院にいる時は、

病院のレンタルの寝巻きなどを活用していた模様)

いよいよ生活に困ったため、

私と共通の知り合いの弁護士に連絡をしてきたわけだ。

 

急遽施設に向かった時は、

寝たきりで痩せ細った姿を想像していたのだが

ちゃんと歩いて面接室まで来た。

ご飯も介護食ながらきちんと食べているようだ。

 

必要なものを一通り聞いて、面会時間が過ぎたため

最後に握手して別れた。

冷え性の私なんかよりよっぽど手が冷たかった。

 

そんな姿を見て、知らないとても辺鄙な特老に搬送されて

とても心細かったのだろうなあと思った。

 

タクシーを呼んでもらって帰ろうとしても

ずっと私の姿を見ている。

職員が自分の部屋につれて行く時もずっと私を見て

私もそれがわかったので、ずっと手を振っていた。

 

差し入れなんかの事(主に食べ物)を職員に確認したら

心臓が悪いので、食べ物の差し入れは出来ないとのこと。

本人はグリコのチョコレートと

大好物だった崎陽軒シウマイ弁当が食べたかったようだ。

古着でもいいから洋服。

それから芸術新潮のバックナンバー。

使い古しでいいから鉛筆と消しゴム。

 

そんな話をしていたら、介護福祉士の方が話しかけてきて

病院のお金や特老のお金の未払いの話や

家族や親族と連絡の取れない話、

長年乗っていたクラッシックカーの

フォルクスワーゲンビートルを

友人に贈りたい話などしてきた。

今は意志の疎通ができるが、後見人がつかないと

こっちも取りっぱぐれなんですよねえ、と困惑していた。

 

私は赤の他人なので、

金銭や家族のことなどは弁護士に頼むようにいい、

家族親族はいることは知っているが、連絡先はわからない。

とりあえず日用品に困っているようで

おそらく私に連絡がきたのだろうと思うので

そちらは近々なんとかすると話した。

 

そんな中、体調を崩したであろう男性が

ストレッチャーに乗せられ、点滴をして搬送されていった。

 

本人が「もうここからはでられない」と話していた。

それも本当なのだろう。

 

それから、1週間ほど毎日数件の着信があり、

夜中にも数件の着信があり、

数件の留守電が残されていたけれども、

しゃがれて小さな声で呟かれるそれは

内容は全くわからないものだった。

 

弁護士に聞いたら、やはり彼のところにも留守電が入っていたようだ。

私は少しの間、無視をすることにした。

冷たいかもしれないが、私は他人で

私の身や精神を引きずられるわけには行かないのだ。

 

週末、私は特老に電話をし、とりあえずの衣服は宅配することにした。

介護職員から、どんな下着を何セット用意すればいいか

長袖、半袖、衣類の生地など詳しく聞いて

近所のスーパーで揃えた。

体に湿疹ができているそうなので、下着は綿100にした。

ジャージ生地の上下を4セットで洗濯して回せるそうだ。

寒がりだと聞いたから、ダウンベストも買った。

筆箱や書くもの、付箋、老眼鏡を100均で購入した。

 

全ての値札と包装を取り外し、荷造りをした。

そしてメモに「まだ芸術新潮のバックナンバーが来ないから

それが来たらまた予約していくよ」と書いた。

 

次の日の午前中着で荷物を送った。

 

次の日、着信があった。

「死ぬほどたすかった」と言われた。

「まだ死なないでよ」と言ったら笑ってた。

また雑誌が来たら、予約して顔見にいくから体に気をつけるように言った。

 

結構疲れた。

そしてまた、ずっと考えている

自分の活動限界についてまた少し考えた。

 

それから、主人に前に言われた

「あなたは周りのことばかりで、いつも損をしている」と

言われることについて考えた。

 

今回の事に関しては、反射的にした部分も多くて

自分の損得は抜きの話だと感じた。

私も若い頃は、その人に悩みをたくさん聞いてもらって

すごく楽になったし、救われた。

だから、やれそうな部分は関わってもいいかなと思う。

 

ただ、引きづられないことに細心の注意を払って。